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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)2377号 判決

原告

大岩三郎

右訴訟代理人

西岡勇

被告

株式会社サンコー

右代表者

川口史朗

右訴訟代理人

村瀬鎮雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

第一原告が被告会社の二、〇〇〇株の株主であること、被告会社が昭和四七年五月一一日創立総会を開催したとして同月一二日設立登記を了したことは当事者間に争いがない。

第二〈証拠〉を綜合すれば、被告会社は創立総会を開催しておらず、発起人において創立総会招集の通知を株式引受人に対して発していないことが認められる。〈証拠〉は、証人長沢常の証言によれば、司法書士長沢常において辻野某から依頼されるままに創立総会議事録、取締役会議事録、調査報告書の起案をして同人に交付し、その後押印がされて辻野が長沢のところに持参したものを、株式会社設立登記申請書に添付して申請をしたものであつて、長沢は川口史朗、原告を全く知らず、創立総会なるものに立会つてもいないことが認められるから、いまだ右認定を動かすに足りない。〈証拠判断略〉

右事実によれば、被告会社は設立に際し発起人による創立総会招集の通知が発せられておらず、かつ創立総会が開催されていないから、設立無効原因があるというべきである。

第三しかしながら、〈証拠〉を綜合すれば、原告はプラスチツク製品の製造販売業を営む三光ライトの無限責任社員として同会社を経営していたが、同会社は経営に行詰つたこと、原告は昭和四七年川口史朗に対し援助万を懇請したこと、一方三光ライトに対し多額の貸付をしていた常滑商工信用組合も川口に対し三光ライトを援助してやつてほしい旨要請したこと、川口はこれを引受けたので、原告において川口及び右組合と再三に亘つて協議した結果、原告は川口及び同人が経営する川営商店から主として資金の提供を受け、新たに株式会社を設立して三光ライトと同様の事業を営み、新会社に三光ライトの旧債を肩代りしてもらつて整理するとの合意に達したこと、原告は同年四月頃から五月上旬にかけて川口及び右組合と具体案を協議した結果、商号を株式会社サンコーとし、本店を被告会社肩書地に置く、その目的を三光ライトと同じくプラスチツク製品の製造販売とこれに附帯する一切の業務とする、発行する株式の総数を八万株、額面株式一株の金額を五〇〇円、設立に際して発行する株式の総数を二万株(資本金一、〇〇〇万円)、発起人及びその引受ける株式は川栄商店八、〇〇〇株、川口二、〇〇〇株、山下信夫二、〇〇〇株、原告二、〇〇〇株、大岩福男一、〇〇〇株(原告の子)、大岩三治一、〇〇〇株(原告の子)、大岩金吾二、〇〇〇株とし、残り二、〇〇〇株は後藤功に引受けさせて株式会社を設立する、設立手続は川口に委せる、新会社の経理面は川口が、実際の生産面は原告がこれにあたる、新会社の代表取締役は川口、取締役は川口、原告、山下、監査役は後藤がそれぞれ就任するとの合意に至つたこと、原告及び大岩福男の株式払込金は川栄商店に立替えてもらい同会社が払込んだこと、原告は昭和四七年五月一二日被告会社が設立登記された後、被告会式に取締役として常勤し、昭和四八年四月三〇日までの第一期に報酬として合計一五六万円の支払を受け、同年五月一日から同四九年四月までの第二期に報酬として七八万円の支払を受けたこと(原告は第二期の途中で退職したため金額が少い。)、前記大岩福男、大岩三治、原告の妻も被告会社に勤務したこと、三光ライトの旧債は川口に折衝をしてもらい、一部債権者を除き減額を受けるなどの方法により始んど解決したこと、ところで、原告所有の別紙第一目録の土地及び三光ライト所有の同第二目録の建物は、別紙一覧表のとおり常滑商工信用組合、中小企業金融公庫を債権者、三光ライトを債務者として根抵当権等が設定され、かねてより右債権者から弁済方の請求を受けていたこと、そこで、原告は川口及び右組合と協議した結果、昭和四七年五月二五日原告において被告会社に対し右土地を代金合計二、一四三万円で、三光ライトにおいて被告会社に対し右建物を代金一、一〇六万七、八六二円で売渡す、被告会社は、右土地及び建物を担保として右組合に対し債権極度額六、〇〇〇万円の根抵当権を設定して借入をし、右借入金でもつて三光ライト及び原告に右代金(原告についてはその一部)を支払う代りに三光ライトの右組合等に対する債務を支払う旨合意し、そのように実行されたのであるが、昭和四八年になつて、原告、三光ライトが右土地、建物を被告会社に売渡したことにつき譲渡所得税の問題が生じたため、原告と川口との間が不和となり、原告は同年七月三一日限り被告会社を退き、同年一〇月二九日本訴を提起するに至つたこと、被告会社は原告の退社により休業状態となつていることが認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてただちに措信し難く、他に右認定を左右すべき証拠はない。

以上によれば、被告会社は、原告が経営していた三光ライトの債務整理のため、原告が川口に援助方を懇請した結果設立された会社であつて、原告は発起人となり、株式二、〇〇〇株を引受け、会社設立後は取締役として一年余常勤し、その間報酬の支払を受けていたものであるし、原告所有の別紙第一目録の土地、三光ライト所有の同第二目録の建物を被告会社に売渡す契約をし、被告会社が三光ライトの旧債を弁済していることを知りながら、原告、三光ライトに対し右不動産の売買を原因とする譲渡所得税の問題が生じたため川口との間が不和となり、被告会社を退き、その後本訴を提起するに至つたものであつて(設立無効の判決は当該会社、その株主及び第三者の間に生じた権利義務に影響を及ぼさない(商法四二八条三項、一三六条三項、一一〇条)から、たとえ設立無効の判決があつても、そのことを理由に原告、三光ライトのなした前記不動産の売買の効力を消滅させ、あるいは課税問題から免れることはできない。)、原告が被告会社の設立無効を主張することは権利の濫用として許されないというべきである。〈以下、省略〉

(松原直幹)

第一、第二、第三目録〈省略〉

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